猫同士の相性を、私はずっと誤解していた|多頭飼いで気づいたこと

ヘッドバナーplaceholder
アイコン

たにぐち

2026年5月20日

猫を2匹、同じ日に迎えました。一緒に育てば、きっと仲良くなる。そう信じていたのに、何年経っても、2匹が並んで眠る姿を見たことがありません。これは私の失敗だったのか。猫同士の「相性」について調べていくうちに、見えてきたことがあります。

同じ日に来た、2匹の猫

あの日のことは、今でもよく覚えている。

玄関に、キャリーケースを2つ並べた。左がチェルシー、右がミルキー。ノルウェージャンフォレストキャットと、チンチラペルシャ。ほとんど同じ月齢の、小さな2匹だった。

キャリーの扉を開けると、チェルシーは迷いなく飛び出して部屋の隅まで走っていった。ミルキーは、しばらくキャリーの中から出てこなかった。鼻先だけ出して、空気の匂いを確かめるように、じっとしていた。

その時点で、もう全然違ったのだと思う。でも私は気づかなかった。同じ家で、同じごはんを食べて、同じおもちゃで遊んでいれば、いつか2匹は仲良くなる。何の根拠もなく、そう信じていた。

SNSで見る多頭飼いの写真。猫と猫が重なり合って眠る、いわゆる「猫団子」。あれが、うちでも見られるようになるのだと思っていた。チェルシーとミルキーが寄り添って丸くなっている姿を想像するだけで、胸が温かくなった。

いつの間にか、別々の部屋

いつからだろう。2匹が同じ部屋にいることが、ほとんどなくなった。

リビングで過ごすノルウェージャンフォレストキャットのチェルシー。リビングが定位置になっている

チェルシーはリビングの住人だ。窓辺の日だまりが定位置で、9キロの体をどっしりと横たえて、外を眺めている。ミルキーは寝室派。ベッドの上で、小さく丸くなっている。

廊下ですれ違うことはある。でも、目を合わせない。チェルシーが廊下を歩いてくると、ミルキーはさりげなく壁際に寄る。チェルシーもミルキーの方を見ない。そのまま、何事もなかったようにすれ違う。

喧嘩はしない。威嚇もしない。ただ、お互いの存在に関心がないように見える。まるで「同じ家にたまたま住んでいる他人」のような距離感。

最初の頃は、気になった。2匹をリビングに集めてみたり、同じおもちゃで誘ってみたり。でもチェルシーが遊び始めると、ミルキーは静かに部屋を出ていく。ミルキーを撫でていると、チェルシーは窓辺から動かない。

SNSを開くたびに、猫団子の写真が流れてくる。2匹が顔を寄せ合って眠る姿。3匹が折り重なってソファで昼寝する動画。見るたびに、小さな棘が刺さるような気持ちになった。

うちの子たちは、なぜこうならないんだろう。

何か間違えたのだろうか。迎え方が悪かったのか。育て方に問題があったのか。私のせいで、この子たちは仲良くなれなかったのだろうか。

そんなことを、ぼんやり考える夜があった。

猫同士の相性を調べてみた

きっかけは、些細なことだった。

ある夜、ミルキーが珍しくリビングに来た。チェルシーは窓辺で寝ていた。ミルキーは部屋を見回して、チェルシーの存在を確認すると、ソファの反対端にそっと座った。2匹の距離は、3メートルほど。目は合わせない。でも、同じ空間にいた。

5分くらいだったと思う。ミルキーはゆっくり立ち上がって、また寝室に戻っていった。チェルシーは目を開けもしなかった。

たったそれだけのことなのに、胸がざわついた。あの距離感には、何か意味があるのだろうか。この子たちは、本当にお互いを「無視」しているのだろうか。

その夜、スマートフォンで「猫 相性 悪い」と検索している自分がいた。

調べ始めると、私が思い込んでいた「常識」が、次々とひっくり返っていった。

最初に出会ったのは、ある概念だった。

猫は「完全な孤独の動物」ではない。かといって、犬のように群れで暮らす動物でもない。研究者たちは猫のことを「通性社会性動物」と呼んでいる。難しい言葉だけれど、意味はシンプルだ。仲良くなれる能力は持っている。でも、必ずしもそうなるわけではない。条件が揃えば社会的な集団を作るし、揃わなければ一匹で生きていく。どちらでも生存できる柔軟さを持った動物、ということだ。

Crowell-Davisらが2004年に発表した論文を読んで、私は少し驚いた。野良猫のコロニーでは、血縁のあるメス猫同士が協力して子育てをしたり、お互いの体を舐め合ったりしている。猫団子で寝るあの姿は、ただくっついているのではなく、体を擦り合わせることで「グループの匂い」を作り、仲間であることを確認する行為なのだという。

つまり猫には、深い絆を結ぶ仕組みがちゃんと備わっている。でもそれは、すべての猫が自動的にそうなるという意味ではなかった。

調べていくうちに、もう一つ重要なことがわかった。猫の社会性には「窓」がある。生後2週から7週までの短い期間。この時期に他の猫や人間と十分に触れ合った子猫は、大人になっても社交的でいられる。逆に、この窓が閉じてしまうと、他の猫と関係を築くのが難しくなる。

チェルシーとミルキーが子猫のときにどんな環境にいたのか、私は正確には知らない。でも、「仲良くならない」理由の一つが、品種でも飼い方でもなく、生後わずか数週間の経験に根ざしている可能性があることを知って、ものの見方が少し変わった。

そして、どうしても気になっていた数字に出会った。

多頭飼い世帯の猫同士の緊張に関するデータ図。AAFP(2024)では62〜88%の世帯で何らかの緊張、Elzermanら(2020)では73.3%が導入初期から対立の兆候と報告

2024年、米国猫医療従事者協会(AAFP)が発表した猫間緊張ガイドラインによると、多頭飼い世帯の62〜88%で猫同士に何らかの緊張が見られるという。

62〜88%。つまり、仲良くしていない方が多数派なのだ。

Elzermanらの2020年の調査でも、2,492世帯のうち73.3%の飼い主が「導入の初期から対立の兆候があった」と報告していた。この調査が示したのは、猫同士の関係において品種や性別よりも、最初に出会ったときの体験の質が重要な要因だということだった。最初の出会いがうまくいったかどうかが、その後何年もの関係に大きく影響する。

この数字を見つけたとき、正直に言えば安堵した。うちだけじゃなかったのだ。

「仲良くならない」は、失敗じゃなかった

論文を読み進めるうちに、私の中である前提が崩れていった。

「仲良くならない=何かが間違っている」。ずっとそう思っていた。SNSで猫団子の写真を見ては、「うちの子たちはなぜこうならないんだろう」と落ち込んだ。でもそれは、犬の社会行動を猫に当てはめていただけだった。一緒に遊ぶ、寄り添って寝る、挨拶する――それは犬の「仲良し」の形であって、猫の関係性を測る物差しとしてはズレている。

猫同士の関係の4段階グラデーション図。親和的な関係、中立的な共存、回避的な共存、緊張状態を示す

猫の関係にはグラデーションがある。互いに体を舐め合い、一緒に眠る親和的な関係。同じ部屋にいるけれど特に交流しない中立的な共存。意図的に距離を取りながら、攻撃はしない回避的な共存。そして凝視や威嚇、追いかけが起きる緊張状態。

チェルシーとミルキーは、三番目の「回避的共存」だった。喧嘩はしない。でも、一緒にもいない。廊下ですれ違うとき、目を合わせずに通り過ぎる。それぞれの場所で、それぞれの時間を過ごしている。

以前の私はそれを「寂しい関係」だと思っていた。でも調べてみると、この距離の取り方は猫にとって理にかなった選択だった。AAFPのガイドラインが最も警鐘を鳴らしているのは、実は「目に見えない緊張」――飼い主が気づかないレベルの慢性的ストレスだ。互いに距離を保ち、相手の領域に踏み込まない猫たちは、ストレスを最小限に抑える知恵を自分で見つけている。

むしろ問題なのは、飼い主が「仲良くさせよう」と無理に接近を促すことの方だった。同じ部屋に閉じ込めて慣れさせようとしたり、同じベッドで寝かせようとしたり。それは猫が自分で築いた平和を壊す行為になりかねない。

Ramosの2019年の論文に、こんな記述があった。「性格の不一致に基づく緊張は、環境改善だけでは完全には解決しない場合もある」。つまり、「仲良くならない」猫たちを無理に変えようとすること自体が、間違った問い方なのだ。

「時間が解決する」という言葉も、調べてみると危うかった。表面上の攻撃行動がなくなったからといって、ストレスが消えたわけではない。研究者たちは「耐性(tolerance)」と「受容(acceptance)」を区別している。反応をやめたのは、状況を受け入れたからではなく、抵抗しても変わらないことを学んだだけかもしれない。本当に見るべきなのは、特定の場所や時間帯の回避、食事パターンの変化、活動レベルの低下――そうした微細な行動の変化だ。

もう一つ、私がずっと気になっていたことがあった。「ノルウェージャンは穏やかだから多頭飼い向き」「ペルシャはおっとりしているから争わない」――そんな話をよく聞く。チェルシーもミルキーも、たしかに「穏やか」と言われる品種だ。なのに、なぜ仲良くならないのか。

ヘルシンキ大学のSalonenらが5,726頭を対象に行った2019年の大規模調査に、答えがあった。この研究によれば、ノルウェージャンフォレストキャットとペルシャは同じ性格クラスターに分類されている。「最も攻撃性が低く、最も恐怖心が低い」グループだ。つまり、チェルシーとミルキーは品種の性格傾向としてはほぼ同じカテゴリにいる。

でも、同じクラスターに属しているからといって、相性が良いとは限らない。そもそも猫の行動のばらつきのうち、遺伝で説明できるのは約半分。残りの半分は、その猫が生きてきた環境と経験で決まる。品種で相性を予測するのは、あまりに粗い物差しなのだ。

チェルシーは9kgの体で窓辺を陣取り、日向ぼっこの合間に家中を探索して回る。ミルキーは寝室のベッドの上から動こうとしない。攻撃性はどちらも低い。でも、活動レベルがまるで違う。この「テンポの差」が、二匹の距離を作っていたのかもしれない。

チェルシーとミルキーの場合、どちらも自分の場所でリラックスしている。食欲もある。毛並みも良い。お互いを避けてはいるけれど、怯えてはいない。

それは、二匹が自分たちで選んだ距離だった。それでいい、と思えるようになったのは、つい最近のことだ。

それぞれの場所で

午後の光がリビングに差し込んでいる。

チェルシーが窓辺で体を伸ばしている。9キロの大きな体が、日差しの中でゆっくり上下している。寝息が聞こえるくらい、静かな午後だ。

自分のお気に入りの居場所で静かに過ごすチンチラペルシャのミルキー

寝室を覗くと、ミルキーがベッドの真ん中で丸くなっている。銀色の毛が、薄暗い部屋の中でほんのり光っている。

同じ屋根の下に、2つの静かな場所がある。それぞれの猫が、それぞれに選んだ居場所で、穏やかに目を閉じている。

一緒に寝ることは、たぶんこれからもない。でも、それがこの家の平和のかたちなのだ。

よくある質問

Q. 猫同士の相性が悪いサインにはどんなものがありますか?

わかりやすい喧嘩や威嚇だけでなく、実は微細なサインがあります。じっと凝視する、追いかける、一方がトイレや食事場所を避けるようになる、活動レベルが急に下がる、特定の場所や時間帯を避ける――こうした変化が見られたら、猫同士に何らかの緊張がある可能性があります。私の場合、チェルシーとミルキーは攻撃的なサインはありませんでしたが、お互いの空間を避ける行動は明確にありました。ただ、喧嘩がないからといって問題がないとは限りません。猫は表に出さないまま、慢性的なストレスを抱えていることもあります。気になる場合は、かかりつけの獣医師に相談されることをおすすめします。

Q. 多頭飼いで猫同士が仲良くならないとき、どうすればいいですか?

まず大切なのは、「仲良くさせよう」と無理に接近させないことです。猫が自分たちで選んだ距離を尊重してあげてください。その上で、環境を整えることが助けになります。トイレは猫の数プラス1個、フード皿や水飲みは複数箇所に分散、それぞれの猫に「ここは自分の場所」と安心できる逃げ場を用意する。私もチェルシーとミルキーにはそれぞれの定位置を確保しています。キャットタワーや棚など垂直方向の空間を増やすのも効果的です。「仲良くない」こと自体が問題ではなく、お互いにストレスなく暮らせる環境を整えることが、飼い主にできる一番の支援だと思います。

Q. 猫の相性は品種で決まるのでしょうか?

品種による性格の傾向はありますが、相性を品種だけで判断するのは科学的には難しいとされています。研究によると、猫の行動特性は遺伝的な要因が約4〜5割、残りは社会化の経験や環境で決まります。同じ品種でもまったく違う性格の猫がいますし、違う品種同士でも深い絆を築くケースはあります。私のチェルシー(ノルウェージャン)とミルキー(チンチラペルシャ)は、どちらも「穏やかで攻撃性が低い」品種グループに分類されますが、活動レベルや環境への適応性は正反対です。品種はあくまで参考程度に留めて、実際の猫同士の行動を観察することが大切です。

※本記事の情報は2026年5月時点の学術研究・専門家見解に基づいています。猫の健康や行動に関する判断は、かかりつけの獣医師にご相談ください。

参考文献

1. Crowell-Davis, S.L., Curtis, T.M. & Knowles, R.J. (2004). "Social organization in the cat: A modern understanding." Journal of Feline Medicine and Surgery, 6(1), 19-28.
2. Rodan, I., Ramos, D., Carney, H., DePorter, T., Horwitz, D.F., Mills, D. & Vitale, K. (2024). "2024 AAFP intercat tension guidelines: recognition, prevention and management." Journal of Feline Medicine and Surgery, 26(7).
3. Elzerman, A.L., DePorter, T.L., Beck, A. & Collin, J-F. (2020). "Conflict and affiliative behavior frequency between cats in multi-cat households: a survey-based study." Journal of Feline Medicine and Surgery, 22(8), 705-717.
4. Salonen, M., Vapalahti, K., Tiira, K., Mäki-Tanila, A. & Lohi, H. (2019). "Breed differences of heritable behaviour traits in cats." Scientific Reports, 9, 7949.
5. Ramos, D. (2019). "Common feline problem behaviors: Aggression in multi-cat households." Journal of Feline Medicine and Surgery, 21(3), 221-233.
6. Bradshaw, J.W.S. (2013). Cat Sense: The Feline Enigma Revealed. Allen Lane/Penguin.

この記事を読んだ方へ

猫の行動や多頭飼いの環境づくりについて、もう少し深く知りたい方にご紹介したい記事です。

SHARE