nyansの創業ストーリー|"猫になりたかった少女"が猫用品ブランドを立ち上げるまで
はじめまして、株式会社nyansを創業した、たにぐちです。
今日は創業のきっかけについてお話したいと思います。少し長い話になりますが、nyansというブランドがどこから来たのか、知っていただけたら嬉しいです。
猫になりたかった少女のこと
私は生まれたときから大の猫好きだった。
物心がついた頃から、欲しいものを聞かれると「猫!」と即答。将来の夢は猫になることで、当時の写真を見返すとほぼすべての写真で猫のぬいぐるみと一緒に写っていた。毎年の誕生日プレゼントも、猫のぬいぐるみ。いつか大人になれば猫になれると、本気で信じていた。
中学受験のご褒美に、念願の猫を迎えた。名前はチロル。
チロルとの暮らしが始まってから、私の頭の中はチロルのことしか考えられなくなった。学生時代は放課後に友達と遊んでいる最中でも、突然チロルに会いたくなって帰ってしまうような子だった。修学旅行で家を空けて、数日ぶりに帰るとチロルが怒って隠れてしまい、号泣してしまった。親が私の未来を心配したのを覚えている。
サラリーマン時代もチロルと過ごす時間を捻出するために、できるだけ遅く出社してさっさと仕事を終わらせ、帰宅。仕事も、友達も、大切じゃないわけじゃない。でも、チロルが待っている家に早く帰りたい。その気持ちだけは、どうしても譲れなくて、チロルの魅力にどっぷりはまっていった。
チロルが教えてくれたこと
そんなチロルが、12歳で腎臓病で亡くなった。
最初は違う病気だと診断されていた。セカンドオピニオンを求めて別の先生に診ていただいたとき、こんな言葉をかけられた。
「猫はもともと水分補給が苦手な生き物だから、カリカリメインだと腎臓に負担がかかることもあるんだよ。」
衝撃を受けた。私はペットショップで勧められたドライフードを、ずっとあげていた。ペットショップやスーパーに当たり前に並んでいて、猫にとっていいものだろうと信じていた商品が、実は猫にとって最適化されていなかったのかもしれない。この言葉の意味を、私はあとになって少しずつ理解していった。
調べてみると、猫の祖先は中東から北アフリカにかけての乾燥地帯に暮らしていたリビアヤマネコだということがわかった。砂漠で暮らす動物だから、獲物の体に含まれる水分で生きていける体のつくりになっている。そのかわり、自分から積極的に水を飲む習慣がもともと薄い。私たちが水飲み場を用意しても、猫が思ったほど飲んでくれないのは、何万年もの進化の結果だった。
ドライフードの水分量は約10%。一方、猫の祖先が食べていた獲物の水分量は約70%。ドライフードを食べている猫は自分で水を飲んで補おうとするが、それでも総水分摂取量はウェットフードを食べている猫には及ばないことが、複数の研究で報告されている。
ただ、ここで正確に書いておきたい。「ドライフードが腎臓病を引き起こす」と断定できる科学的な証明は、現時点ではなされていない。猫の慢性腎臓病は、加齢、遺伝的な素因、さまざまな環境要因が複雑にからみ合って発症するとされている。ただ、十分な水分補給が腎臓の健康維持に大切であることは、多くの獣医師が指摘している。
猫の慢性腎臓病は10歳以上の猫のおよそ2〜5割が罹患するとされる、とても身近な病気だ。あの日、獣医師の先生がチロルを診ながら伝えてくれた「水分補給の大切さ」は、科学的にも理にかなった助言だった。
チロルとの12年間は、私にとってかけがえのない時間だった。チロルが教えてくれたのは、猫のことを「なんとなく」で済ませてはいけないということ。知ろうとすること、調べること、そして気づいたら行動すること。
今でも私は、チロルを死なせてしまったのは自分のせいかもしれないと思っている。チロルと出会ったその日から、もっとちゃんと勉強しておけばよかった。あんなに大好きだと言っていたのに、行動は全く伴っていなくて、自分がすごく嫌になった。
自分への悔しさと、猫を取り巻くビジネス環境への疑問。その二つが同時に押し寄せてきて、私は一つの決意を固めた。
猫が使うものや食べるもの、猫を取り巻くサービスを全部猫仕様に変えたい。
これが起業を決意した理由だ。猫の幸せを中心に据えた商品やサービスが、世の中にはまだ全然足りていない。だったら自分でつくるしかない、と。
設立当初、株式会社nyansはスタートアップ企業として「ニャッチング」というサービスをつくった。ニャッチングは、ご近所の猫の飼い主さん同士が助け合えるコミュニティサービス。お互いにシッターし合えたり、猫の血液ドナーが見つかったり、災害時に助け合えたり、情報交換ができたり。犬にはドッグランがあるけれど、猫にはそういう場所がない。いざというときに頼れる仲間が見つかればいいな、という思いからスタートした。
最初はウェットフードをつくりたかった。ただ、フードは開発難易度が高い上に、猫の飼い主さんが本当に何に困っているのかをまだ自分はわかっていないと感じていた。商品をつくる前に、まず飼い主さんの声を集める場所が必要だった。それがコミュニティづくりから始めた理由だ。
ただ、当時の私はITの知識がゼロ。ビジネスの勘所もゼロ。完全に「ビジョンドリブン」で、ニャッチングはマネタイズまで至らず、慈善サービスとして運用していた。
ニャッチングではマネタイズが難しく、マーケティングの受託やSNS運用など、やれそうなことはなんでもやった。少しずつお金が貯まってきて、いよいよ自社商品の開発に着手できることになった。「猫のことをいちばんに考えた商品をつくりたい」という思いで、商品開発をスタートした。
商品開発は失敗もたくさんあった。例えば、鹿肉ウェットフードの開発。
狩猟免許まで取得して山に篭り鹿を狩るという、われながら狂気の行動に出た。クラウドファンディングまで実施したのだが、猫の好みがあまりにも激しく、最終的な商品化には至らなかった。
国産のまたたびは、なぜ見つからないのか
フードの開発には研究組織が必要だと考え直し、最初の商品を用品に絞った。その中でまず取り組んだのが、またたびの開発だった。
私たちの「またたびマフィア」は、原材料のまたたびそのものに国産のものを使用している。国産のまたたびは大変貴重で、原料の価格も高い。生産者さんが丁寧に収穫したまたたびを、猫にもきちんと届けたいという思いで原料を調達している。
小売に営業に行くと、厳しい現実が待っていた。ここで私が知ったのは、「国産」という表示の仕組みだった。ペットフード安全法では、原産国の表示基準は「最終加工工程を完了した国」と定められている。つまり、外国で収穫された原料であっても、日本国内で粉末加工などの工程を行えば、「国産」と表記することができるのだ。詳しくは「国産またたびの真実—効率ではなく、信頼を選んだ私たちの最初のプロダクト」で解説している。
これは法律上認められた仕組みであり、違法ではない。ただ、飼い主さんが「国産」という文字を見たとき、多くの方は「原料も日本で採れたもの」だと思うのではないだろうか。表示制度と消費者の認識のあいだには、どうしてもギャップが生まれてしまう構造がある。
他社を批判したいわけではない。ただ、自分たちが「これがいい」と信じられるものを作りたい。それがnyansの「またたびマフィア」で国産原料にこだわる理由だ。
小売の現場では、価格と回転率が重視される。数百円の差であっても、新参メーカーの高めの商品を棚に並べてもらうのは容易ではなかった。バイヤーさんにもそれぞれの事情があるし、弊社の商品を置いてくれている小売さんはみな猫想いの方々ばかりだ。ただ、業界の構造としてそういう現実がある。
猫を愛する飼い主さんは、安い商品ではなく猫にとって良い商品を求めているはずだという思いは変わらなかった。まずはネットで魅力を伝えることから始めるしかない。そう決意して、ネット販売をメインに切り替えた。
800人の飼い主さんと作った爪とぎ
ネットで販売した最初の商品が、nyansの爪とぎだ。きっかけは、私自身がネットで買った爪とぎだった。届いた瞬間、臭い。なんでこんなに臭いんだろう、こんな臭いものを猫に与えて大丈夫なのか。そう思ったのが始まりだ。詳しくは「ダンボールの匂いを嗅いだ日のこと」でお伝えしている。
爪とぎを開発する過程では、ニャッチングで繋がっていた飼い主さん800人にアンケートを取り、ユーザーインタビューもさせていただいた。飼い主さんが本当に何に困っているのか、最適な素材は何か、一つひとつ丁寧に調べていった。
他の爪とぎと比べれば、価格は高くなった。でも、800人の飼い主さんの声を聞いて作った商品だ。口コミで高い評価をいただけたとき、この方向は間違っていなかったと感じた。
チロルへの悔しさから始まり、たくさんの失敗を経て、ようやくここまで来た。遠回りばかりだったけれど、一つひとつの経験がnyansのものづくりの土台になっている。
だからこそ、これからも変わらず大切にし続けたいことがある。
猫を理解することからはじめます
nyansは「猫にとっていいんだっけ?」という問いから商品開発に着手し、飼い主さんへのアンケート調査、ユーザーインタビューを経て、一つひとつ商品をつくっています。これからも大切にし続けることがあります。
猫を理解することからはじめる。
水を飲むのが苦手なこと。匂いにとても敏感なこと。そうした"小さな特性"を大切に、ものづくりの真ん中に据えます。
安心・安全を徹底的に。
猫の五感が「心地よい」と感じられるように。日々触れるものの刺激や違和感を、できる限り取り除きます。
飼い主さんにも、寄り添う。
猫の満足だけでは、しあわせは続きません。飼い主さんの「ちょっと困った」も、一緒に解決していきます。
「これがいい」と、胸を張って言えるものだけ。
開発者自身がワクワクして、「猫のために!」と胸を張れるかどうか。この基準を超えたものだけを、お届けします。
私は今でも、頭の中は猫のことでいっぱいです。あの日、チロルを失って初めて気づいた「当たり前」の怖さ。あの悔しさが、nyansの原点です。
猫と暮らすすべてのお客様へ。これからもnyansにご協力・応援いただけたら、とても嬉しいです。
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ニャッチングユーザーの皆様へ
サーバーが古くなり、現在サービスを休止しています。大変お待たせして申し訳ございません。今年中に大きく形を変えてリリースする予定ですので、もうしばらくお待ちいただけますと幸いです。
※本記事の情報は2026年3月時点の学術研究・専門家見解に基づいています。猫の健康に関する判断は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
参考文献
1. Driscoll, C.A. et al. (2007). "The Near Eastern Origin of Cat Domestication." Science, 317(5837), 519-523.
2. Buckley, C.M. et al. (2011). "Effect of dietary water intake on urinary output, specific gravity and relative supersaturation for calcium oxalate and struvite in the cat." British Journal of Nutrition, 106(S1), S128-S130.
3. Brown, C.A. et al. (2016). "Chronic Kidney Disease in Aged Cats: Clinical Features, Morphology, and Proposed Pathogeneses." Veterinary Pathology, 53(2), 309-326.
4. Sparkes, A.H. et al. (2016). "ISFM Consensus Guidelines on the Diagnosis and Management of Feline Chronic Kidney Disease." Journal of Feline Medicine and Surgery, 18(3), 219-239.
5. Uenoyama, R. et al. (2021). "The characteristic response of domestic cats to plant iridoids allows them to gain chemical defense against mosquitoes." Science Advances, 7(4), eabd9135.
6. 農林水産省「ペットフード安全法 表示に関するQ&A」
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