国産またたびの真実——効率ではなく、信頼を選んだ私たちの最初のプロダクト
nyansがモノづくり企業になると決めて、最初に開発したのが「またたびマフィア」でした。
猫にとって、またたびは古くから親しまれてきた特別な嗜好品です。しかし私たちは、そのまたたび市場に対して大きな違和感を抱いていました。
店頭に並ぶ「国産またたび」への疑問
店頭に並ぶ多くの商品には「国産またたび」と表記されています。
ところが、実際には原材料が海外から輸入されているケースも少なくありません。
なぜそのようなことが起こるのか。それは、ペット用品における「国産」表示のルールに理由があります。
ペットフード安全法における「原産国」の定義
環境省・農林水産省が所管するペットフード安全法では、ペットフードの原産国を「最終加工工程を完了した国」と定義しています(農林水産省「ペットフード安全法 表示に関するQ&A」)。
これは食品表示法における加工食品の原料原産地表示制度とも共通する構造です。消費者庁の「新たな加工食品の原料原産地表示制度」によれば、加工食品においては「国内で製造または加工された」ことをもって「国内製造」と表示でき、原材料そのものの原産地とは区別されます(消費者庁, 2021)。
つまり、海外から輸入した原料であっても、国内で粉末加工や袋詰めなどの最終加工を行えば「国産」と表示できる場合がある——それが現行のルールです。
消費者の多くは、当然ながら「原料も国産である」と信じて購入しています。
私たちは、この構造に強い違和感を覚えました。
なぜ国産のまたたびは希少なのか
ここで一つ、知っていただきたい事実があります。純国産のまたたびは、非常に希少な原料だということです。
栽培できない植物
またたび(学名:*Actinidia polygama*)は、マタタビ科に属するつる性の落葉植物です。山地の沢沿いや湿り気のある林縁に自生し、標高800メートル以上の山間部、傾斜の険しい水辺の近くといった限られた自然環境でしか育ちません。
挿し木の発根率が低く、つる性植物であるため支柱や棚の管理が必要で、さらに猫による食害を防ぐための物理的な防護も求められます。農地での人工栽培は技術的にもコスト的にも非常に困難で、現実にはほとんど行われていません。
そのため、自然に自生したものを人の手で山に分け入り、一つひとつ収穫するしかないのが現状です。
収穫者の高齢化という構造的問題
そして、もう一つの深刻な課題があります。収穫に携わる人々の高齢化です。
またたびが自生する中山間地域は、日本の国土の約7割を占める一方で、過疎化と高齢化が最も進行している地域でもあります。科学技術振興機構(JST)の調査報告書「中山間地域の持続可能性」(2019)が示すように、こうした地域では農業従事者の減少と耕作放棄地の拡大が加速しています。
農林水産省の特用林産物生産統計調査(令和4年)を見ても、山菜類全体の生産量は年々減少傾向にあります。わらびは649トン(前年比+24.6%と回復傾向にあるものの)、乾ぜんまいは15トン(前年比-6.2%)。またたびは主要品目として個別集計すらされていないほど、生産規模が小さいのが実態です。
足場の悪い急斜面での採取作業は、高齢の採取者にとって年々厳しくなっています。林業の不振により山に人が入る機会そのものが減り、結果として、かつて収穫を担っていた人々が一人、また一人と山を離れていく。
国産またたびの収穫量は、静かに、しかし確実に減り続けています。
またたびの中でも、なぜ「虫えい果」なのか
「うちの猫、またたびに無反応なんです」という声を聞くことがある。
私たちが「またたびマフィア」に使用しているのは、またたびの中でも特に珍重される「虫えい果(ちゅうえいか)」です。
虫えい果とは、またたびの実にマタタビミタマバエという昆虫が寄生することで、実が変形・肥大化したものです。正常な実と比べて有効成分であるマタタビラクトン類やアクチニジンの含有量が高く、猫への効果がより強いとされています。
この虫えい果は、すべてのまたたびの実にできるわけではありません。自然環境下で虫が寄生した実だけが虫えい果になるため、通常の実よりもさらに希少です。
私たちは、この虫えい果のみを使用しています。
ペット用品業界の「普通」に感じた違和感
またたびの原産地表示の問題は、実はこの業界全体に通じる構造の一部でもあります。
ペット用品市場は、ここ10年で大きく拡大してきました。矢野経済研究所の調査によれば、国内ペット関連市場は2023年時点で約1兆8,000億円規模に達しています。市場が拡大すれば、当然ながら効率とコストの論理が強くなります。大量に仕入れ、大量に加工し、大量に売る。そのサイクルの中で、原料の出自や品質よりも、価格競争力が優先されるようになっていく。
私たちは、その構造自体を否定するつもりはありません。それが市場原理であることは理解しています。
しかし、そこに「消費者が知らないまま選ばされている」という状況があるならば、それは公正とは言えないのではないか。
「国産」という言葉は、消費者にとって品質と安全の象徴です。その言葉の重みを、業界は守るべきだと私たちは考えています。
原料を探す旅——四国の山で出会ったもの
「またたびマフィア」の開発にあたって、私たちは純国産の原料を探すことから始めました。
正直に申し上げると、簡単な道のりではありませんでした。
まず、国産の虫えい果を安定的に供給できる生産者を見つけること自体が困難でした。前述のとおり、またたびは栽培できません。山に入り、自生しているものを一つずつ手で採取するしかない。しかも、その採取を担う方々は高齢化が進んでいる。
四国の山間部で、今もまたたびの採取を続けている方々と出会うことができたとき、私たちは二つのことを同時に感じました。
一つは、安堵です。純国産の原料を使った製品づくりが、まだ可能であるということ。
そしてもうひとつ大事なこと。依存性もない。
もう一つは、責任です。この原料がいつまでも手に入るわけではないということ。収穫量は年々減っていく。いまこの瞬間に、この品質の原料を使える幸運を、私たちは無駄にしてはいけない。
だからこそ、中途半端な製品にするわけにはいかないと思いました。
コストと信頼、どちらを選ぶか
モノづくりにおいて、コストは常に重要な判断材料です。ビジネスである以上、それは当然のことです。
国産の虫えい果を使えば、原料コストは海外産の数倍になります。それをそのまま価格に反映すれば、お客様にとっては「高い」と感じる商品になるかもしれません。
海外産の原料を使い、国内で加工して「国産」と表示する——その方がはるかに効率的で、利益率も高い。市場の多くの商品がそうしているように、私たちにもその選択肢はありました。
しかし、私たちはそれを選びませんでした。
理由はシンプルです。お客様が「国産」と書かれた商品を手に取るとき、そこには「原料も日本のものだろう」という信頼がある。その信頼を裏切ることは、たとえ法的に問題がなかったとしても、私たちが目指すモノづくりとは相容れないからです。
コストは確かにかかります。利益率は他の方法より低くなります。
それでも、「お客様に対して正直であること」の方が、長期的には大きな価値を持つと私たちは信じています。
「またたびマフィア」に込めたもの
改めて、nyansが「またたびマフィア」の開発で何を選んだのかを整理させてください。
原料
四国で収穫された国産またたびの虫えい果のみを使用。海外産原料は一切使用していません。
加工
虫えい果を粉末加工し、猫が最も効果を感じやすい形態でお届けしています。岩手大学の研究でも、乾燥葉や粉末の形態が猫の反応を最大化しつつ安全性も高い最適な形態とされています(Uenoyama et al., 2023)。
表示
原材料が国産であることを明確にお伝えしています。「最終加工が国内だから国産」ではなく、「原料そのものが国産である」という意味での国産です。
いつまで続けられるか、わからない。それでも。
またたびの収穫量は今後も減少していく可能性があり、いつまで国産原料を使い続けられるかは正直に申し上げてわかりません。
もしかすると、数年後には原料の確保が難しくなるかもしれない。その可能性は、私たちも覚悟しています。
それでも、私たちは「お客様に信頼されるモノづくり企業であること」を何よりも大切にしていきたいと考えています。
効率的な方法は他にもあったはずです。コストを抑える選択肢もありました。
しかし私たちは、効率ではなく、信頼を選びました。
それが、nyansの最初のプロダクト「またたびマフィア」に込めた、私たちの答えです。
| 参考文献 |
1. Uenoyama R, Ooka S, Miyazaki T, Mizumoto H, Nishikawa T, Hurst JL, Miyazaki M (2023) "Assessing the safety and suitability of using silver vine as an olfactory enrichment for cats" *iScience*, 26(10), 107848
2. 消費者庁(2021)「新たな加工食品の原料原産地表示制度について」
3. 農林水産省「ペットフード安全法 表示に関するQ&A」
4. 農林水産省「特用林産物生産統計調査」(令和4年)
5. 科学技術振興機構(2019)「中山間地域の持続可能性についての調査報告書」
6. 矢野経済研究所(2023)「ペットビジネスに関する調査」
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