昨日、福岡が揺れました。ぐらり、と来たとき、わたしよりも先に、猫たちが反応しました。——これは、こわい思いをしたわたしが、あわてて調べて考えた、猫の防災の記録です。
文・たにぐち
昨日、福岡が揺れました。
ぐらり、と来たとき、わたしよりも先に、猫たちが動きました。チェルシーとレオは、まるで示し合わせたように、真っ先にベッドの下へもぐりこみました。あとで思えば、あれは避難訓練としては満点でした。身を低くして、頑丈なものの下に隠れる——猫の本能は、ちゃんと正しいのです。でも、ミルキーだけは違いました。どうしていいかわからず、その場でオドオドと立ちすくんでいる。わたしはとっさに、その子を抱き上げました。大丈夫だよ、と声をかけながら、わたしの手のほうが、少し震えていたと思います。
同じ家の三匹でも、とっさの反応は、こんなにも違う。自分で身を守れる子もいれば、固まってしまう子もいる。このことも、あとからじわりと効いてくるのですが、まずは先を急ぎましょう。
熊本では、もっと大きく揺れたと聞きました。ニュースを見ながら、遠くの飼い主さんと猫たちのことが、頭から離れませんでした。そして同時に、自分のことも、初めて真剣に考えたのです。もし、あの揺れが「これから」だったら。わたしは、この子たちを守れるんだろうか、と。
これは答えを教える記事ではなく、昨日こわい思いをしたわたしが、あわてて調べて、考えた記録です。同じように「うちの子、大丈夫かな」と思った方と、一緒に考えられたらうれしいです。
「抱えて、逃げられるのか」。三匹と、9kgのチェルシー
揺れがおさまってから、わたしがいちばん最初に思ったのは、じつはとても即物的なことだった。
——この子たち三匹を、わたし一人で、抱えて逃げられるのか。
うちには猫が三匹いる。そのうちの一匹、チェルシーは9kgある。抱き上げるだけで、ひと苦労だ。階段の途中で一度、息を整えるくらいの重さだ。その9kgを抱えて、残りの二匹も連れて、揺れる家から、崩れるかもしれない廊下を通って、外へ。……想像してみて、わたしは静かにぞっとした。無理だ。少なくとも「そのとき考える」では、間に合わない。
猫を災害から守る、と聞くと、備蓄品のリストを思い浮かべる。フード、水、トイレ。もちろんそれも要る。でも昨日わたしが突きつけられたのは、もっと手前のことだった。そもそも、パニックになった猫を、どうやって連れて逃げるのか。
調べていて、いちばん多くの被災した飼い主さんが「これが命綱だった」と口をそろえていたのが、拍子抜けするくらい地味なことだった。キャリーケースに、日ごろから慣れさせておくこと。ただ、それだけ。
キャリーは、しまっておくものではなかった
わたしはこれまで、キャリーを押し入れの奥にしまっていた。使うのは、病院のときだけ。そして出すたびに、猫は「あの箱だ」と察して、全力で逃げる。毎回、大捕物だ。
でも、それがいちばん危ないのだと知った。
いざ揺れたとき、猫はパニックになる。ふだんおとなしい子でも、我を忘れて走り、隠れ、時には家から飛び出してしまう。そんな状態の猫を、はじめて見るキャリーに押し込むのは、ほぼ不可能だ。仙台で東日本大震災に遭ったある飼い主さんは、寝るときも枕元にキャリーを置いていた。だから揺れた瞬間、すぐに猫を入れて、フードと水だけ持って、スムーズに逃げられたという。日ごろから車に猫用トイレを積んでいたのも効いた。
コツは、キャリーを「怖い箱」から「安心する場所」に変えてしまうことらしい。生活する部屋の中に、扉を開けたまま置きっぱなしにする。中でおやつをあげる。おもちゃで誘う。猫が自分から入って、そこで昼寝をするようになれば、もう大丈夫。どうしても入ってくれない子は、押し入れやお風呂場を「この子の隠れ場所」と決めておくだけでも違うそうだ。
うちのチェルシーの9kgは、正直、キャリーに入れても重い。それでも、「入ってくれる状態」を作っておくかどうかで、いざというときの数分が、まるで変わる。今日から、リビングにキャリーを出しっぱなしにしてみようと思う。まずは、それだけでいい。
熊本の「今」を思う。冷房が、つかない
もう一つ、ニュースを見ていて胸がふさがったことがある。この暑さの中で、熊本では停電が続き、冷房がつかない地域があるという。
人間でも危ない暑さだ。猫にとっては、なおさらこたえる。調べてみると、停電を経験した飼い主さんの多くが、夏や冬の空調が使えないことにいちばん困ったと話していた。地震そのものより、そのあとの暑さ寒さのほうが、じわじわと猫の体を削っていく。
避難所に行かず、家にとどまる「在宅避難」を選ぶつもりの飼い主さんは6割近くいるという調査もある(ユニ・チャーム・2025年・犬や猫の飼い主206名)。知らない場所は猫のストレスになるし、多頭だと連れて行くのも難しい。だからこそ、家の中で猫を守る備えが要る。停電しても最低限の空調を保てるように、蓄電池やポータブル電源を用意していた人は、「あれで不安がやわらいだ」と話していた。すぐには揃えられなくても、頭の片隅に置いておきたい。窓を開けられないほどの猛暑のとき、電気が止まった部屋で、猫がどう過ごすか。想像しておくだけでも、備えの入り口になる。
いま熊本で、猫と一緒に踏んばっている飼い主さんたちのことを思う。どうか、人も猫も、無事でいてほしい。
支援物資は、猫には遅れて届く。だから「うちの子の分」は、うちで
そして、これがいちばん、書いておきたかったことだ。
災害が起きると、支援物資が届く。でも、それはまず人間のためのものだ。ペットフードが届くのは、どうしても、そのあとになる。実際に東日本大震災と熊本地震の両方を経験した飼い主さんは、「動物への援助は、なかなか来なかった」と振り返っていた。お店の棚からはペットフードが真っ先に消え、缶詰は手に入らず、猫砂も品薄になる。自動販売機に残っているのは炭酸飲料ばかりで、猫に飲ませる水にも困ったという。
ここで、猫飼いなら誰もがうなずく、あの事実が効いてくる。——猫は、好き嫌いが激しい。
うちの子たちもそうだ。昨日まで喜んで食べていたフードを、今日はぷいと横を向く。そんな気まぐれな子たちが、災害のストレスの中で、慣れない支援物資のフードを、はたして食べてくれるだろうか。実際、被災して環境が変わり、二日間まったく食べなくなってしまった猫もいたという。
そして、もっと切実なこと。持病があって療養食を食べている子。あの特別なフードが、支援物資として届くことは、まず、ない。
だから、猫の分は、飼い主が「自分で」備えておくしかない。どれくらいかというと、国のガイドライン(環境省)は「少なくとも5日分、できれば7日分以上」と言っている。持病の子や好き嫌いの激しい子なら、もっと余裕がほしい。いつも食べているフードを、少し多めに。できれば、味や形のちがうフードにも、ふだんから少しずつ慣らしておく(一種類しか食べない子は、それが手に入らないと詰んでしまうから)。療養食の子は、なおのこと、多めのストックを。水も、循環式の給水器でしか飲まない子は、ふつうの器から飲む練習をしておくと安心だ。
備蓄というと、義務みたいで気が重い。でも見方を変えれば、これは「この子の好きなものを、切らさないでおく」ということだ。いちばんストレスのかかるときに、いつもの味を食べさせてあげられる。それは、備えというより、やさしさの前借りなのだと思う。
迷子と、窓と、飼い主の顔
ほかにも、調べて心に残ったことを、いくつか書いておく。同行避難の基本と防災グッズのくわしいリストは、編集部の記事にまとめてあるので、具体的な備えはそちらが頼りになる。ここでは、わたしの心に引っかかったことだけを。
脱走と迷子。パニックになった猫は、思いもよらない力で逃げる。だから、首輪に連絡先を書いた迷子札と、マイクロチップ。「首輪のおかげで、また会えた」という声が、いくつもあった。
窓。これは知らなくてぞっとした。パニックになった猫が、開いた窓やベランダから飛び出して、そのまま迷子になってしまうことがあるという。揺れたら、まず窓と玄関を閉めて、猫を落ち着ける場所に移すこと。ガラスの飛散防止フィルムを貼っておくのも、一般的な防災対策として有効だそうだ。覚えておきたい。
病院。かかりつけが被災することもある。近くの動物病院を、いくつか、夜間や二十四時間対応も含めて調べておく。持病のある子は、飲んでいる薬の名前や検査結果を、スマホで撮っておくだけでいい。
そして、飼い主の安心感。とある飼い主さんが言っていた。「飼い主さんがパニックだと、猫はもっと不安になる」。逆に、揺れたときにすぐ抱っこして、「大丈夫だよ」と声をかけて、ゆらゆらしてあげると、猫は落ち着く。においのついたタオルが一枚あるだけでも、心強いのだそうだ。
つまり、いちばんの防災グッズは、落ち着いた飼い主自身なのだ。備えがあれば、慌てずにすむ。慌てずにすめば、猫も安心する。備えるというのは、モノを揃えることであると同時に、その日のわたしが取り乱さないための、心の準備でもあるのだと思う。
今日、ひとつだけ
ここまで書いて、正直、やることの多さに、自分でも少しくらくらしている。キャリー慣れ、備蓄、迷子札、窓、病院リスト……全部を今日やるのは、無理だ。
でも、それでいい。全部できていなくたって、あなたはちゃんと、この子を大事にしている。防災は、できてない自分を責めるためのものじゃない。
だから、今日はひとつだけでいい。キャリーを押し入れから出してリビングに置く。フードをひと袋、多めに買っておく。首輪に連絡先を書く。スマホに、近くの夜間病院をメモする。どれか、ひとつ。
わたしは今日、キャリーを出しっぱなしにするところから始める。9kgのチェルシーが、いつかその中で昼寝をしてくれる日まで、気長にやろうと思う。
昨日の揺れは、こわかった。でも、あのこわさが教えてくれたこともある。「この子たちを、なにがあっても守りたい」という気持ちを、もう一度、はっきりと思い出させてくれた。防災は、その気持ちを、いざという日より前に、かたちにしておくこと。愛を、事前に、準備しておくこと。それだけのことなのだと思います。
このたびの地震で亡くなられた方々に、心より哀悼の意を表します。そしていま、熊本で、猫と一緒に不安な夜を過ごしている飼い主さんたちのことを思っています。冷房もつかない暑さの中で、限られたフードで、それでも我が子を守ろうとしている方たちが、たくさんいるはずです。
nyansも、熊本の猫と飼い主さんのために、なにかできることがあれば、力になりたいと思っています。遠くからでも、できることを探していきます。どうか、人も猫も、無事で。そして、一日でも早く、いつもの毎日が戻りますように。
よくある質問
Q1. まず、何から準備すればいいですか?
わたしがもし一つだけ選ぶなら、キャリーケースに慣れさせることをおすすめします。ふだんから部屋に出しておき、中でおやつをあげて「安心できる場所」にしておくと、いざというときスムーズに避難できます。備蓄や迷子札も大切ですが、一度にすべてを完璧にする必要はありません。今日できることを、一つずつで大丈夫です。
Q2. フードや水は、どれくらい備えておけばいいですか?
環境省のガイドラインでは、ペットのフードと水は少なくとも5日分、できれば7日分以上の備蓄がすすめられています。支援物資のペットフードは人間の物資より遅れて届きやすく、療養食はまず届きません。療養食や好き嫌いのある子は、いつものフードをさらに多めにストックしておくと安心です。
Q3. 避難所には、猫と一緒に入れますか?
国(環境省)は、ペットを連れて避難する「同行避難」を原則としています。ただし「同行避難」は「連れて避難すること」であって、避難所で一緒に過ごせることとは限りません。ペット可の避難所でも、人とペットが同じ空間で過ごせるとは限らず、その場で相談になることもあります。お住まいの地域の避難所がどう対応しているか、平常時に調べておくと安心です。
Q4. 猫が怖がってパニックになったら、どうすればいいですか?
猫にとっては、まず飼い主さんが落ち着くことがいちばんの安心材料になります。可能なら早めに抱っこして、「大丈夫だよ」と声をかけてあげてください。においのついたタオルや、ふだん使っているものが一つあるだけでも、猫は安心しやすくなります。キャリーに毛布をかけて中を暗くしてあげるのも、落ち着かせる助けになります。
ご注意
- 本記事は個人の体験にもとづくエッセイです。避難指示・避難所の開設状況・ペット受け入れの可否は、必ずお住まいの自治体の公式発表を最優先してください。
- 愛猫の体調に異変がある場合は、自己判断せず獣医師にご相談ください。
公開日: 2026年7月29日(最終更新日: 2026年7月29日)